ゲノム編集で作られる食品(その1:手法と従来の品種改良との相違)
つい先日発表された今年のノーベル化学賞は「ゲノム編集」の技術開発に与えられました。
ゲノムとは、遺伝子(gene)と染色体(chromosome)から合成された言葉で、個体のもつ遺伝情報のことです。既に遺伝子組み換えによる作物や食品が市場に出回っています。いずれも、「遺伝子を人為的に操作しているので、なんとなく不安!」という印象が強いのではないでしょうか。
そこで本報(2報あり)では、ゲノム編集の手法と従来から行われてきた品種改良(遺伝子組み換えも含む)との相違や、具体的な食品応用への取り組みを紹介することにより、少しでも不安の解消に寄与できればと思います。
ゲノム編集とは、その個体がもつ遺伝子を鋏(酵素)で切り貼りすることにより性質を改変することです。遺伝子組み換えは、他の個体の遺伝子(外来遺伝子)を挿入して改変することですので、本来無かった新たなタンパク質が作られる(アレルゲンの可能性を秘める)点で異なります。従って、後者は日本では規制の対象で、審査に時間がかかり表示も原則義務化されています。
しかしゲノム編集でも、(a)元の遺伝子を削ったり少し書き換える(自然の突然変異に近い)ものから、(b)別の遺伝子と入れ替える(遺伝子組み換えに近い)ものまであるので、どう対応するのかが問われています。ちなみに、欧州司法裁判所は「全て遺伝子組み換えとして規制する」判断をし、米農務省は「規制を行うことはない」と表明しています。
従来からの育種は計画的な交配を行うもので、放射線や化学薬品で突然変異を誘導する技術が進んでいますが、開発には5~20年かかります。
これに対してゲノム編集は2~5年の開発期間で、効率よく品種改良できるメリットがあるわけです。しかも、既存の遺伝子組み換えでは狙い通りに改変するのが困難であったのが、ゲノム編集(今回のノーベル賞を受賞した手法)では、精度良くピンポイントでの改変ができるようになっています。
ちなみに受賞者の言を借りれば、「バラの棘を無くす改変で、従来なら甘い香りも失っていたが、この手法では棘だけを無くせる」とのことです。
次報では、このゲノム編集の手法による食品応用への取り組みと表示の問題を紹介します。
(本文中の下線部の詳細については、インターネット等の情報で確認してください。)